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大阪地方裁判所 平成4年(行ウ)53号 判決

大阪府堺市高倉台三丁目一三番二号

原告

島津敬三

右輔佐人

中条裕充

大阪府堺市南瓦町二番二〇号

被告

堺税務署長 広瀬俊邦

右指定代理人

川口泰司

竹田優

関山輝

浅田洽爾

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

被告が平成三年五月一〇日付で原告の平成元年分の所得税についてした更正を取り消す。

第二事案の概要

一  当事者間に争いのない前提事実

1  本件課税処分の経緯

(一) 原告は、昭和六三年三月七日父平芳市蔵(以下「市蔵」という。)が死亡したことにより、市蔵が所有していた特定市街化区域にある別表1の1ないし3の土地(以下これらをそれぞれ「本件1の土地」ないし「本件3の土地」といい、これらをまとめて「本件土地」という。)を、本木高子、中条照子、村田愛子とともに、各々持分四分の一の割合で共同相続した。そして、原告は、平成元年中に、本件土地を、他の三名の共有者とともに順次他に売却した。

(二) 原告は、平成元年分の所得税の確定申告書に別表2の確定申告欄のとおり記載し、かつ、本件土地の売却による分離長期譲渡所得については租税特別措置法(平成二年法律第一三号による改正前のもの。以下「措置法」という。)三一条の三(特定市街化区域農地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例)及び措置法三七条一項(特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例)の規定の適用を受ける旨をも記載して、法定申告期限までに被告に提出し、確定申告(以下「本件確定申告」という。)を行った。

(三) 被告は、本件確定申告にかかる分離長期譲渡所得については、措置法三一条の三を適用することはできないものとして、平成三年一月二五日付で別表2の更正処分等欄のとおり更正及び過少申告加算税の賦課決定(以下これらを併せて「先行処分」という。)をなした。

(四) 原告は、先行処分を不服として、平成三年二月一二日、その取消を求める異議申立てを行った。しかし、原告は、その後措置法三七条の二第二項二号に該当するに至ったため、同項所定の期限内である同年三月一九日、平成元年分の所得税の修正申告書に別表2の修正申告欄のとおり記載して被告に提出し、修正申告(以下「本件修正申告」という。)を行った。

(五) 異議審理庁は、平成三年五月七日付で、先行処分のうち更正にかかる異議申立てを却下し、過少申告加算税の賦課決定は全部取り消す旨の異議決定をなした。

(六) 原告は、本件修正申告においても分離長期譲渡所得について措置法三一条の三の規定を適用して税額の計算をしていたため、被告は、平成三年五月一〇日付で、別表2の再更正処分等欄のとおり更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税の賦課決定(以下これと本件更正とを併せて「本件更正等」という。)をなした。

(七) 原告は、本件更正等を不服として、平成三年六月一〇日、その取消を求める異議申立てを行ったが、異議審理庁は、同年八月九日付で、原告の異議申立てをいずれも棄却する旨の異議決定をなした。

原告は、右異議決定を経た後も本件更正等についてなお不服があるとして、同年八月一四日審査請求を行ったが、国税不服審判所長は、平成四年六月二二日付で審査請求を棄却する旨の裁決をなし、右裁決は同年七月一六日原告に送達された。

原告は、そこで、同年一〇月一日、本件更正の取消を求めて本訴を提起した。

2  原告の所得、課税所得、所得税額等について

原告の平成元年分の所得、課税所得及びそれから所定の法令を適用して算定される所得税額等は次のとおりである。

(一) 総合課税の所得金額(総所得金額) 四五三万九二六五円

(二) 分離長期譲渡所得金額 三億一三五七万九八四一円

(三) 所得控除額 二〇六万一〇一二円

(四) 課税される右(一)に対する金額(課税総所得金額) 二四七万八〇〇〇円

(五) 課税される右(二)に対する金額(課税分離長期譲渡所得金額) 三億一三五七万九〇〇〇円

(六) 右(四)に対する税額 二四万七八〇〇円

(七) 右(五)に対する措置法三一条の三を適用しない場合の税額 七六三九万四七五〇円

(八) 措置法三一条の三を適用しない場合の税額計 七六六四万二五五〇円

(九) 源泉徴収税額 二一万七六〇〇円

(一〇) 措置法三一条の三を適用しない場合の申告納税額 七六四二万四九〇〇円(これは本件更正の課税額を上回る。)

二  当事者の主張及び争点

原告は、本件土地はいずれも措置法三一条の三第二項一号の特定市街化区域農地に当たるから、本件修正申告にかかる分離長期譲渡所得については同条の適用があり、分離長期譲渡所得税額は、課税分離長期譲渡所得金額から四〇〇〇万円を控除した残額の二二・五パーセント相当額に八〇〇万円を加えた金額となる旨主張する。これに対し、被告は、本件土地は農地ではないから、同号に規定された特定市街化区域農地には当たらず、従って、分離長期譲渡所得税額は、措置法三一条により、課税分離長期譲渡所得金額から四〇〇〇万円を控除した残額の二五パーセント相当額に八〇〇万円を加えた金額となると主張する。

本件土地が同号の農地に該当するか否かが争点である。

第三争点に対する判断

一  措置法三一条の三の農地について

措置法三一条の三の適用を受ける同条二項一号の土地については、譲渡の時点において農地でなければならないことは、同条の規定から明らかである。ところで、同条は、特定市街化区域農地の宅地化を促進する目的で、宅地として利用されるべくして特定市街化区域農地の譲渡がなされた場合等について長期譲渡所得の課税に関する税法上の優遇措置を定めたものである。そして、同条一項では、「当該譲渡につき農地法第五条第一項第三号の届出を要する場合には、当該届出がされた後に行ったものに限る。」と規定され、また、同条二項三号では、「前二号に掲げる土地のうち、昭和五十七年一月一日以後に農地法第四条第一項第五号の届出がされ、かつ、当該届出がされた後において引き続き宅地として所有する土地」も同条に規定する特定市街化区域農地等に当たる旨規定されている。このような同条の立法趣旨及び農地法に言及した文言等からすると、同条の農地とは、農地法に規定された農地と同じものを意味すると解せられるから、その解釈に当たっては、農地法の解釈と軌を一にすべきである。従って、同条二項一号の農地とは、登記簿上の地目の如何にかかわらず譲渡の時点の現況によって判断されるべきもので、その時点において、現に耕作されている田畑か、又は、現に耕作されていなくても耕作するつもりになればいつでも簡単に耕地として復旧しうるようないわゆる休耕地等を意味し、単なる更地がこれに当たるものでないことは当然である。

二  本件1の土地について

甲三の三、三の六、九の一、一〇の一、一〇の二、乙四、検乙一、二及び弁論の全趣旨によれば、本件1の土地(これは大阪市住之江区南加賀屋三丁目三六番一の土地から分筆された土地である。)は、昭和五八年末頃から日本フードサービス株式会社に賃貸されて同社のガレージ敷地として利用されていたのであって、その固定資産税についても昭和五九年から現況宅地として課税がなされてきたこと、市蔵の死亡後右賃貸借契約は解約されて、平成元年三月二二日には右分筆がなされ、同年四月一九日原告ら四名の相続人への相続による所有権移転登記がなされて、同年六月一六日尾崎満男へ売却され、同年八月三日受付で同人への所有権移転登記が経由されたこと、平成二年八月一四日には、本件1の土地上に同人によって地下一階付七階建の建物が築造されたこと、以上の事実が認められる。

右によれば、本件1の土地は、遅くとも昭和五八年末頃からは農地ではなくなっていたもので、たとえ譲渡される前に更地とされていたとしても、それは単に譲渡することを前提として一時的に更地とされたにすぎないと推認されるから、譲渡の時点でそれが農地であったといえないことは明らかである。

三  本件2の土地について

甲三の五、三の八、九の二、一二の九、検乙三、四及び弁論の全趣旨によれば、本件2の土地は、昭和五九年一二月一五日、ヤマザキ産業株式会社に資材置場とする目的で賃貸され、同社はその上にプレハブ造りの倉庫を建てて資材置場として使用していたところ、昭和六一年四月六日、市蔵と同社との間で、同社において昭和六三年一二月三一日限り本件2の土地を明け渡す旨の裁判上の和解が成立したこと、(なお、右和解調書における本件2の土地の表示は、現況宅地となっている。)、本件2の土地の固定資産税についても昭和四七年から現況宅地として課税がなされてきたこと、平成元年二月二八日本件2の土地は太陽圧接株式会社へ売却され、同社によってその上に建物が建築されたこと、以上の事実が認められる。

右によれば、本件2の土地は、遅くとも昭和五九年末頃からは農地ではなくなっていたもので、たとえ譲渡される前に更地とされていたとしても、それは単に譲渡することを前提として一時的に更地とされたにすぎないと推認されるから、譲渡の時点でそれが農地であったといえないことは明らかである。

四  本件3の土地について

甲三の五、三の一〇、五の二、五の三、六の四、九の三、九の四、一一、乙七、八、検乙五、六及び弁論の全趣旨によれば、本件3の土地は、昭和六一年頃から貸駐車場として一般の第三者に賃貸されていたが、昭和六三年九月頃、原告ら四名の相続人から各賃借人に対して、住宅建築を計画しているので同年一二月末日までに明け渡してもらいたい旨の要請がなされたこと、本件3の土地の固定資産税についても昭和四九年から現況宅地として課税がなされてきたこと、本件3の土地については、昭和六三年九月五日原告ら四名の相続人への相続による所有権移転登記がなされ、平成元年五月一七日大阪市住之江区御崎六丁目三五番一と同番二に分筆されて、同月中に、同番一が大阪ビルディング株式会社、同番二が株式会社仲卯にそれぞれ売却され、同年七月六日所有権移転登記が経由されたこと、その後右二筆の土地は木津信用組合に売却されて合筆され、その上に同組合の建物が建てられたこと、以上の事実が認められる。

右によれば、本件3の土地は、遅くとも昭和六一年頃からは農地ではなくなっていたもので、たとえ譲渡される前に更地とされていたとしても、それは単に譲渡することを前提として一時的に更地とされたにすぎないと推認されるから、譲渡の時点でそれが農地であったといえないことは明らかである。

五  特定市街化区域農地等の証明書について

なお、本件土地については、大阪市住之江区長によって措置法三一条の三第二項一号の特定市街化区域農地であることの証明書(特定市街化区域農地等の証明書)が発行されているが(甲三の六、三の八、三の一〇)、乙六によれば、これらの証明書は、住之江区役所の担当吏員が直接現場を見分した上で発行したものではないと認められ、その作成経緯は明らかでないから、右証明書の存在をもって本件土地が特定市街化区域農地であると認定することは到底できない。

六  よって、原告の本訴請求は理由がない。

(裁判長裁判官 松尾政行 裁判官 山垣清正 裁判官 明石万起子)

別表1

譲渡した財産の明細

〈省略〉

別表2

原告の平成元年分の所得税の課税の経過及びその内容

〈省略〉

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